不妊治療中の方、妊娠中の方への新型コロナウイルスワクチン接種について

現時点での米国生殖医学会の見解です。(日本生殖医学会HPより抜粋)

更新情報第11版(2020年12月16日)
ファイザーと BioNTech が共同開発した新型コロナウイルス(SARS-COV-2)ワクチンについて、米国食品医 薬品局(FDA)が 2020 年 12 月 11 日に緊急使用許可(EUA)を出したことを受け、米国生殖医学会(ASRM) の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)タスクフォース(以下、「タスクフォース」)1 は、生殖医療界向けに 本更新情報を提供します。

・12 月 15 日時点で、米国の COVID-19 感染者数および入院者数は過去最高レベルに達し、その結果、 COVID-19 関連死者数は 30 万人を超えました。パンデミックを制御する危機緩和戦略は、普遍的なマスク 着用、人と人との身体的距離の確保、社会的相互作用の制限、そして頻繫な消毒対策に現時点では大きく 依存し続けています。ワクチン接種が広まれば、ウイルスの感染拡大をさらに抑えるとともに、パンデミック発 生期間を短縮し、罹患率や死亡率にパンデミックが及ぼしている悪影響を小さくできるだろうと期待されてい ます。
・ファイザーと BioNTech が共同開発した新型コロナウイルスワクチンを米国の 16 歳以上向けに流通させる ため、FDA は 2020 年 12 月 11 日に新型コロナウイルスワクチンに対する米国初の緊急使用許可を出しまし た。FDA のワクチンならびに関連の生物製剤に関する諮問委員会(VRBPAC)は 12 月 17 日に再び会合を 開き、モデルナがワクチンの緊急使用許可を得るために提出した安全性および有効性のデータを評価する 予定です。
・ファイザーとモデルナのワクチンは、いずれも mRNA ワクチンで、生きたウイルスは含まれません。いずれ も 2 回の接種が必要であり、接種間隔はファイザーと BioNTech のものでは 21 日間、モデルナのものでは 28 日間です。両ワクチンとも、接種部位周辺の細胞に mRNA を届け、この mRNA は、接種された者自身の 細胞がコロナウイルスのスパイクタンパク質(S タンパク質)を複製するよう誘導します。複製された S タンパク 質は順次、体に異物として認識され、生体防御のための抗体が産生されます。mRNA 自体は急速に分解さ れるため、細胞の核に入ることはありません。ファイザーと BioNTech の新型コロナウイルスワクチンは、具体 的には脂質ナノ粒子により製剤化したヌクレオシド修飾 mRNA ワクチンです。ナノ粒子表面の脂質コーティ ングが細胞膜に結合し、細胞内への mRNA 分子断片の流入を促進します。なお、注射で投与できるさまざ まな医薬品の一般的な成分で、脂質ナノ粒子の一部であるポリエチレングリコール(PEG)に対して、人によ っては稀にアレルギー反応を示すことがあります。このため、過去にワクチンまたは注射剤に対する重篤な アレルギー反応を起こしたことがある人にこのワクチンを投与する場合には、注意が必要です。
・ワクチン接種の取り組みが進んでいる間は、タスクフォースによる更新情報第 3 版に示されたすべての緩 和方策が、引き続きしっかりと守られている必要があります。これは以下の理由によります。 1)ワクチンを接種された者が新型コロナウイルスに感染した場合、ウイルスを他者に伝播できるのかがまだ 不明である
2)新型コロナウイルスに対する感染防御免疫の獲得には時間がかかる
3)ファイザーと BioNTech のワクチンの 2 回接種計画は、COVID-19 の発症を防ぐという点では有効性が 95% だが、免疫を 100%付与するものではない
・妊娠の予定がある、現在妊娠中である、または授乳中である者にワクチン接種を差し控えさせることを、タ スクフォースは推奨しません(1~3)。これは、米国疾病予防管理センター(CDC)の予防接種の実施に関す る諮問委員会(ACIP)、米国産婦人科学会(ACOG)および米国母体胎児医学会(SMFM)の推奨事項に則 しています。

・不妊治療を受けている者や妊婦は、適正基準に従ってワクチン接種を推奨されるべきです。ワクチンは生 きたウイルスではないため、ワクチンを投与したからといって妊娠の試みを延期する理由はなく、また、2 回目 の接種が完了するまで不妊治療を見合わせる理由もありません。
・ワクチン接種の検討時には、接種する側とされる側が共通の意思決定モデルを用いるべきであり、自律性、 与益および無加害という倫理原則を考慮する必要があります。その地域における新型コロナウイルスの伝播 と感染のリスク、COVID-19 に罹患した場合の個人的リスク、COVID-19 の患者が受けるリスクと胎児に及ぶ 可能性のあるリスク、ワクチンの効能および既知の副作用、そして妊娠期間におけるワクチンのデータの欠 如といういずれの点も、ワクチン接種について判断する際には考慮すべきです。中には、ワクチン接種が 2 回とも完了するまで妊娠の試みを延期することを選ぶ者もいる可能性があります。
・最近の研究からは、妊娠が COVID-19 の重症化のリスク因子である可能性が示唆されています(4~8)。さ らに、妊娠中または妊娠を真剣に考えている女性の多くが、肥満、高血圧、糖尿病など、COVID-19 の重症 化の可能性を高めるさらなるリスク因子を抱えています。ワクチン接種に関する判断には、これらについての 検討も反映する必要があります。
・新型コロナウイルス mRNA ワクチンは生きたウイルスを含まないため、不妊、妊娠前期または中期の流産、 死産、そして先天異常のリスクを高めることはないと考えられています。なお、ファイザーと BioNTech のワク チン、そしてモデルナのワクチンは、ともに当初の治験の第 III 相試験の際に妊婦と授乳中の女性を対象外 としていたため、この 2 グループに特化した安全性データはまだなく、今後の研究は計画途上であるという 点に留意する必要があります。しかしながら、mRNA ワクチンの作用機序と既存の安全性データにより、妊娠 中の新型コロナウイルス mRNA ワクチンの安全性が保証されています。FDA による緊急使用許可の通知書 は、ファイザーが妊娠への影響についての市販後観察研究を実施することを条件に、妊婦や授乳中の女性 に対するワクチン接種を認めています(9)。
・新型コロナウイルスワクチン接種後に発熱が見られる人も中には見られるものの(接種された人の最大 16%、 大半が 2 回目の接種後)、妊娠中または妊娠を望んでいる者にワクチンを接種するかどうかの判断をする際 には、発熱のリスクを懸念材料とみなすべきではありません。胎児の神経管に欠陥が生じるリスクの増大は、 妊娠中(特に妊娠初期)の発熱と関連があるとされてきましたが、妊婦の一日当たりの葉酸摂取量が 400 μg を上回っていれば、この関連性は有意ではなくなるということが最近の研究で示されました(10)。また、デン マークで行われた別の大型のコホート研究では、妊娠初期に発熱の報告があった妊婦の間で胎児の先天 異常のリスク増大は認められませんでした(11)。さらに、発熱は COVID-19 自体の最も一般的な症状です (患者の 83~99%が発熱)。ワクチン接種後に発熱が見られる場合は、アセトアミノフェンなどの解熱薬を投与 してください(12)。
・1 回目と 2 回目のワクチン接種の間に妊娠したいと希望している患者についても、定められた接種間隔に 従って、2 回目の接種を実施する必要があります。

・臨床医は、患者、患者が属する各コミュニティー、そして一般の方々に対してワクチン接種を推奨するべき です。ワクチン接種に対する抵抗感が最も強いグループは、COVID-19 の重症化リスクが最も高いグループ でもあるということが予備データからは示唆されています。このため、これらのグループでのワクチン接種率 を高める具体的な取り組みを進める必要があります。
異なるワクチンプラットフォームを用いたさらなる新型コロナウイルスワクチンの開発が現在進んでいます。今 後、これらのワクチンが承認を得るのに合わせ、タスクフォースは引き続き更新情報を提供していきます。